キャッチコピーとふつうの文章との違い
キャッチコピーを英語で書けばCatch Copy。ひとの心をCatch(つかまえる)ためのCopy(文章)がCatch Copyです。
つまりひとの心をつかまえ、ひとの心を動かすための見出し、タイトルがキャッチコピーなのです。
いちばん大切なことは、この“ひとの心を動かす”ということです。“ひとの心を動かす”ことで、商品を買っていただくのが、キャッチコピーの目的なのです。
ですから、“ひとの心を動かす”ことができなければキャッチコピーとはいえないわけです。
だから、ひとの心はどうしたら動かせるのか、その心理を理解していなければキャッチコピーはつくれません。
キャッチコピーは決して単なる「気の利いたひと言」や、「巧みな言い回し」ではありません。
そのキャッチコピーを見たひとの気持ちを動かすことで、その次のアクションを誘発させるのがキャッチコピーの役目なのです。
読みたいと思ってもらえるコピーや文章を書くコツ
- □ひとを驚かせる
- □ひとを振り向かせる
- □ひとを感心させる
- □ひとに記憶させる
- □キャッチコピーにつづく文章を読みたくさせる
キャッチコピーの役目をひと言でいえば、そのキャッチコピーを見たひとの心を動かすことです。
では、どんなふうに心を動かせばいいかといえば、まず興味を持ってもらうことです。
心のなかに「なんなんだ!?」という疑問符、しかも心地よい疑問符が生まれなければ興味を抱いてもらえません。
そのうえで、もっと知りたいという気持ちを起こさせること。
もう一度、いいます。
キャッチコピーのただひとつの目的は、ひとの心を動かすというただそれだけです。
ですから、ひとの心が動かなかったら、なにをいっても無駄なのです。
キャッチコピーの目的は、その商品について説明することでもなければ、その商品について理解してもらうことでもありません。
ひとは、自分の心が動かなければ関心も興味も持ってくれないのです。
関心も興味も持っていないひとになにを言っても伝わるわけはありません。ひとは聞きたいことしか聞きたくありません。聞きたくないことをいくら叫んでも、ひとはただ耳を閉ざすだけ、心の耳は開いてくれないのです。
ところが、キャッチコピーを作ろうとしたとき、その原理・原則に気づかず、言いたいことを言おうとしてしまうのです。
言いたいことを言っても、相手にはなにも伝わりません。
基本的に広告は、キャッチコピーは、見てくれない、振り向いてくれない、読んでくれない、信用してくれない、そんなひとに向かって投げかける言葉と思ったほうがいいのです。
そのうえで、どうしたら振り向いてもらえるか、興味をもってもらえるか、次につづくコピーを読んでもらえるかがキャッチコピーの挑戦なのです。
その挑戦に勝つためにいったいどうしたらいいのか、それをこれからいっしょに考えていきたいと思うのです。
キャッチコピーはどうやってひとの心を動かすのか
- 1.心に届くコピーを書くためにまず決めること
ターゲット・セグメンテーションという言葉があります。
まず、そのキャッチコピーで振り向かせたいひとは誰なのか、それを決めることが最も大切なことです。
しかも、そのひとはたったひとりに絞り込まなければならないのです。
八方美人では、誰の心もキャッチすることはできません。
そのとき、「でも、この商品はたくさんのひとに買ってもらいたいから」とキャッチコピーを作ろうとしているほとんどのひとは考えます。
でも、違うのです。
あなたもマガジンハウスから出版されている『anan』という雑誌はご存じだと思います。昔、『anan』が爆発的な人気を誇っていたとき、その編集長だった木滑さんという方が、「たったひとりの読者のためにこの雑誌はつくっているんだ」とおっしゃったそうです。
そして、そのあとに続く言葉が凄いのです。「でも、そのたったひとりの読者の向こうに100万人の読者がいるんだよ」と木滑さんはおっしゃったというのです。
ターゲット・セグメンテーション、つまりターゲットの絞り込みにはさまざまなノウハウが紹介されています。
そのどんなノウハウでもかまわないのです。大切なことは、ターゲットをたったひとりに絞り込み、そのターゲットがどんなひとでどんな生き方・暮らし方をしていて、どんな価値観をもっていて、どんな考え方・感じ方をするひとで、そしてどんな行動を取るひとか。
年齢、性別、住んでいるところ、家族構成とかデモグラフィック(人口統計的)なことはもちろん、サイコグラフィック(心理的)なことまで細かく絞り込んでいくのです。
この作業をおろそかにしたまま、いやなんとなく漠然としたままでキャッチコピーを作ろうとしてはいけないのです。
キャッチコピーの目的は、ターゲットの心を動かすこと。ならば、ターゲットがどんなひとか明確でなければ、そのひとに向けてキャッチコピーの矢を放つことはできません。そのひとがどこにいて、どんなひとかはっきりしていなければ、そのひとの心をつかまえようがないのです。
あなたの作るキャッチコピーで、いったい誰の心を動かしたいのか、まずそれをとことん絞り抜いていただきたいのです。
手のひらで手のひらをいくら押しても少し痛いだけです。でも、針で押せば少し力を入れるだけで血が出てきます。それは、一点に力が集中しているからです。
キャッチコピーもまったく同じです。
たったひとりのターゲットに絞り込むからこそ、ターゲットの心を突き刺すキャッチコピーが作れるのです。
あなたが動かしたい、たったひとりのひとは誰ですか。そのひとはどんなひとですか。
その質問に答えられないままキャッチコピーを作ろうとしても、ターゲットの心を動かすキャッチコピーなどつくれるわけはないのです。
デモグラフィク属性
- □年齢
- □性別
- □職業
- □学歴
- □所得
- □家族構成
- □居住地
- ※順序と重要度とは相関関係がありません。
サイコグラフィック属性
- □ライフスタイル
- □価値観
- □好み
- □趣味
- □嗜好
- ※順序と重要度とは相関関係がありません。
2.「どう」書くかより大切な「何」を伝えるか
キャッチコピーを作ろうとしたとき、ついついうまい言い回しを考えようとしてしまいがちです。あなたの心のなかの本音は「うまいと言われるキャッチコピー」を作りたいとつぶやいているのです。“うまいといわれる”ためには、「何」を言うかより「どう」言うかが大切と思ってしまい、ついつい「何」を言うかと「どう」言うかをいっしょに考えてしまうのです。
これこそ、あなたが思うようにキャッチコピーを作れない最大の、いや唯一のといっても過言ではない原因のひとつなのです。
「何」をいうか。
「何」を伝えるか。
「何」をいい、「何」を伝えたいか。
それを、それだけを徹底的に考え抜いてください。
このとき、キャッチコピーを作ろうとするのではなく、「何」をいうか、「何」を伝えるか、「何」をいい、「何」を伝えたいかそれを箇条書きにするといいのです。
ポイントは、絶対にキャッチコピーを作ろうとしないことです。
キャッチコピーを作ろうとした瞬間、あなたの脳ミソは凝固し、あなたの頭のなかはフリーズしてしまうのです。
キャッチコピーが作れない最大の原因は、キャッチコピーを作ろうとするその意識です。
「何」をいうか、「何」をいうべきか、それだけをとことん考えて、次々と箇条書きにしていけばいいのです。
いや、そうしなければいけないのです。
そして書き殴ったたくさんの箇条書きのなかに、きっとあなたが言いたいことであり、ターゲットの心を動かすそんなキャッチコピーの種が蒔かれていることに、あなたはきっと気づかれるに違いないのです。その種を見つけるまで、あなたは「何」をいうか、「何」をいうべきかひたすら考え続け、箇条書きをし続けていただきたいのです。
3.そのコピーの「狙い」は「何」なのか
「何」をいうかを考え抜くことこそ、ターゲットの心を動かすキャッチコピー作りの鉄則ですが、そのとき忘れてはならないことは、そのキャッチコピーの、その広告の「狙い」は「何」なのかということです。
キャッチコピーづくりは、広告づくりは、簡単にいえば料理づくりと同じです。
あなたが料理を作るとき、何を考えるでしょうか。
まず、その料理を作る目的は何かということを考えるのではないでしょうか。
食欲を満たすため、健康のため、お祝い、みんなでパーティと、目的が違えば料理を作る「狙い」もちがってきます。
ところが、この「狙い」は何なのかということを考え抜かずにキャッチコピーを作ろうとすると、ターゲットの心をどう動かすか決まっていないわけですから、
当然のことながら、ターゲットの心に刺さるキャッチコピーはなかなか作れません。
- □ターゲットにどんな気持ちになってもらいたいのか
- □ターゲットにどんなことを気づいてもらいたいのか
- □ターゲットにどんなことをしてもらいたいのか
あなたの「狙い」は「何」なのか、それを徹底的に書き出していってもらいたいのです。これも箇条書きでかまいません。いや、キャッチコピーを考える前の段階ですから、くれぐれもキャッチコピーを作ろうとしないでいただきたいのです。
けれど、不思議なことに、こうして考え抜くと、そこにあなたが作りたかったキャッチコピーの種が見え隠れしてくるのです。
4.キャッチコピーの「狙い」:その①目的による違い
キャッチコピーの「狙い」は、大きくふたつに分けることができます。
4-1イメージアップという「狙い」
□知ってもらう
□理解してもらう
□好きになってもらう
□愛しつづけてもらう
あなたについて、あなたの商品・サービスについて、まず知ってもらうことが大切です。
知らないもの、よくわからないものをひとは、人間の生存本能により遠ざけようとします。知らないもの、よくわからないものは危険だからです。
しかも、人気度は認知度に正比例します。知ってもらわなければ、理解してもらわなければ好きになってはもらえないのです。
また、もうひとつ大切なことに愛しつづけてもらうというイメージアップがあります。
これはイメージアップというより、イメージがダウンするのを避けるといったほうが適しているかもしれません。
このイメージダウンを防ぐ、つまり陳腐化を防ぐことは、特に大企業では最も大切な永遠の命題のひとつにさえなっているのです。
ブランド陳腐化は、大企業、特にシェアNo.1の企業が最も恐れていることのひとつです。
イメージを生み出す、そのイメージをさらに醸成する、そのイメージをキープし、イメージダウンを防ぐ。
この一連のイメージアップこそ、大企業が日頃の広告活動のなかで継続的に繰り返していることのひとつです。
そして、このイメージアップに欠けているのが、中小企業や個人事業主だったりするのです。
そして、このイメージの高さは、しばしばマインドシェアと言い換えられます。
マインドシェアとは、ターゲットの心のなかでその商品やブランドや企業が占める記憶度や印象度の割合です。実際のマーケットでの実績の数値としての市場シェアとは異なり、あくまで心のなかで想起される度合いを表したものです。
例えば、「あなたがいちばん好きなクルマのブランドは?」という質問に対して、実際に乗っているクルマではなく、最も好印象を持っているクルマのブランド名を答えてもらうことで、そのターゲット群のクルマに対するマインドシェアを測ることもできるのです。
4-2.セールスプロモーションという「狙い」
□試してもらう
□買ってもらう
□買い続けてもらう
□紹介してもらう
もうひとつの大きな目的を持った「狙い」がセールスプロモーションです。
セールスプロモーションの「狙い」は、ひと言でいえば買ってもらうために、ターゲットに行動してもらうことです。
DRM、ダイレクトレスポンスマーケティングの分野では、特にこのセールスプロモーションが最も重要な目的のひとつとして掲げられます。
ところが、買ってもらいたいからといって、ただセールスプロモーションを目的にキャッチコピーを作っても、なかなか買ってもらえるものではありません。
イメージアップというもうひとつの「狙い」を果たしたうえで、セールスプロモーションというもうひとつの「狙い」を果たすことが大切です。
イメージが低いままでいきなりセールスプロモーションをしかけても、ターゲットはなかなか行動してくれないのです。
5.キャッチコピーの狙い:その②認識による違い
5-1.いままでにないモノをマーケットに売り込む「異質馴化」
人間は生存本能から、未知なものは自分から遠ざけようとします。
つまり、“異質”を避けようとするのです。
いままでマーケットに存在しなかったもの、それが“異質”です。
その“異質”を馴れさせる、“異質”を“馴化”させる。
それが、「異質馴化」です。
いまではマーケットであたりまえに受け入れられているものも、最初はそう簡単に受け入れられはしなかったのです。
例えば、カップヌードル。
その前身のチキンラーメンは売れていましたが、簡単にいえばそれをカップにいれたカップヌードルは最初は受け入れられず、あまり売れていなかったのです。
そのカップヌードルが全国区に知れ渡り、人気商品になったきっかけのある出来事をご存知でしょうか。
いまから42年前、連合赤軍という過激派が人質を盾に軽井沢の企業の研修所に取り籠もった「浅間山荘事件」が起きました。当時、2昼夜に渡り、すべてのテレビ局がこの「浅間山荘事件」を生中継していました。
過激派と自衛隊との銃撃戦が繰り広げられ、自衛隊の方がお亡くなりになられた凄惨なテロ事件でした。
冬の軽井沢、零下の現場ではおにぎりも凍ってしまいます。そこで自衛隊の方々のお腹を満たしたのがカップヌードル。カップヌードルを温かそうに美味しそうにすする自衛隊員の方々がテレビに映され、全国に放映されたのです。
これをきっかけにカップヌードルは日本中で食べられるようになりました。
知れ渡ってしまえばなんのことはない。けれど、知れ渡るまでは、誰も手を出そうとしない。そんな“異質”を“馴化”させるのが「異質馴化」という広告手法です。
この「異質馴化」の名作キャッチコピーといえば、TOTOのウォシュレットの「お尻だって洗ってほしい。」というキャッチコピーです。
いまでこそ、日本中どころか世界で受け入れられているウォシュレット。けれどそれは、“異質馴化”を巧みに受け入れさせた、巨匠仲畑貴志さんの名作キャッチコピーがあったからなのです。
5-2.ブランド陳腐化を回避する「馴質異化」
ひとはすぐ飽きてしまいます。飽きるともう欲しくなくなってしまいます。よく知っているものについても同様で、こんどは興味がなくなってしまうのです。「差別化」という言葉がありますが、その本質は“馴質”、つまり馴れたものを“異化”、つまり違ってみせる「馴質異化」にほかなりません。
「異質馴化」でも例に出したカップヌードルは、もう誕生してから約半世紀経つ商品です。味も中身もすべて知りつくされているといっても過言ではありません。ある日突然、「もうカップヌードルは食べ飽きた」といわれても決して不思議ではないのです。
カップヌードルのメーカーである日清食品さんが最も恐れているであろうことは、このブランド陳腐化です。
人気商品であるからこそ、ロングセラー商品であるからこそ「馴質異化」は広告の必須命題です。
そんな狙いから生まれたのが、「HUNGRY」や「NO BORDER」のキャッチコピーでつくられたカップヌードルのテレビCMです。
おもしろいのは、同じカップヌードルのテレビCMでも、「馴質異化」のイメージアップを目的としたブランド広告と、セールスプロモーションを目的とした広告とでは、広告のトーン&マナーも、雰囲気も、わかりやすさもまったく両極端だということです。
誤解を恐れず言えば、世の中の広告は、「異質馴化」か「馴質異化」かどちらかでしかないのです。
たとえばスマホの広告は、いまや完全に「馴質異化」がテーマになっています。
スティーブ・ジョブズがはじめてiPhoneを世の中に発表したときは「異質馴化」だったのです。なぜなら、スマートフォンという存在はいままでこの世の中に存在しなかったからです。
けれど、いまやスマートフォンはさまざまなメーカーが出されていて、極端にいえばAppleとdocomoとSoftBankとauで、スマホの性能・機能に圧倒的な違いなどありません。
そんななかで他のスマホと違った存在として差別化するのが「馴質異化」の広告なのです。
まとめ
キャッチコピーを作ろうとする前に、あなたがそのキャッチコピーに託そうとしているその狙いを定めることくらい大切なことはありません。
ただ漠然といいキャッチコピーを作ろうとしても、なにがいいのかその基準が定まっていなければ、いいも悪いも決められないからです。
誰に、何をいうか。それをいうことでどんな「狙い」を果たそうとしているのか。
キャッチコピーを作ろうとする前に、まずそれを定めることからはじめてください。
そして、それが定まると、不思議なことにもうキャッチコピーは生まれていたりすることが多かったりするのです。
キャッチコピーは決して思いつくものではありません。
キャッチコピーは考えるものなのです。
だからこそ、ただ思いつくのを待つのではなく、
「誰」に「何」をいうのか、
そこにはどんな「狙い」があるのか。
それをまず考えることから始めていただきたいのです。
1958年、横浜生まれ。同志社大学文学部卒業。
広告企画制作・株式会社エヌワイアソシエイツ、総合広告代理店・株式会社インターストラテジー、ソーシャルメディア専門広告代理店・株式会社ソルト等の経営者であり、広告プロデューサー、ブランディングプロデューサー、コミュニケーションクリエイター、ディレクター、コピーライター、コーチ、セミナー講師、作家、詩人として幅広く活動。大手企業の広告キャンペーンを手がけ、多くの商品をヒットに導く。30年以上の広告人としてのキャリアの中で培った、商品の隠れた可能性を見つけ、付加価値を高める独自のブランディング手法を確立。そのブランディングノウハウを広く提供し、著名人の撮影やクライアントのパーソナルブランディングをプロデュース。プロフィール構築からポートレート撮影、目標達成や成功をサポート。クライアントは多岐にわたり、カリスマブランディングプロデューサーとしても定評を集める。マイケル・ボルダック認定コーチ。経済産業大臣登録中小企業診断士。