キャッチコピーは自分ではなく、他人を動かす文章
キャッチコピーの目的は、「ひと」を動かすことです。
この場合の「ひと」は、見込み客、エンドユーザーにほかなりません。
あなたがあなたご自身の商品やサービスのキャッチコピーを作る場合には、この「ひと」はあなたご自身の見込み客、エンドユーザーになるのは当然のことです。
しかし、あなたがもしあなた以外のクライアントに頼まれてキャッチコピーを作るとしたら、あなたが動かさなければならないのは、そのクライアントの見込み客やエンドユーザーだけでなく、そのクライアントも含まれるということを決して忘れないでください。
逆にいえば、あなたがクライアントに頼まれてキャッチコピーを作る場合には、そのクライアントこそ、あなたが動かさなければならない最も大切な「ひと」に違いないのです。
そのクライアントがあなたにどんなコピーを作ってもらいたいのか、それを尋ねることからあなたは始めなければならないのです。
ところが、往々にして、クライアントの意向を確かめるどころか極端な場合には無視して、クライアントの見込み客やエンドユーザーに向けた、“コピーライティングするあなたがいいと思う”キャッチコピーを書いてしまいがちなのです。
そして、そのキャッチコピーが認められないと、逆にあなたはあなたのクライアントを認めることができず、クライアントはクライアントであなたへの不信感を抱き高めるだけなのです。
それでは、あなたにキャッチコピーを依頼してきたクライアントの信頼を獲得しながら、そのクライアントの見込み客・エンドユーザーを動かせるキャッチコピーの作り方と、クライアントとの関係性構築の方法をご説明していきましょう。
クライアントの気持ちを動かすための鉄則
クライアントの気持ちを動かすたったふたつの鉄則があります。
それは、
1.クライアントの期待に応える
2.クライアントの期待を裏切る
というふたつの鉄則です。
クライアントの期待に応えるというのは、あまりに当たり前過ぎることと思われるかもしれません。
しかし、現実には、この期待に応えるということほど満たされていないものはありません。
あなたの日々の生活や仕事のなかで、周りのひとたちはあなたの期待に応えてくれているでしょうか。極端にいえば、ほとんど期待に応えてくれていないのではないでしょうか。
食事をしにいったときに、その飲食店のサービスは、提供されるメニューは、支払った価格は、あなたの期待に応えてくれていたでしょうか。
あなたがいっしょにビジネスをしている相手が、あなたの期待に日々的確に応えてくれているでしょうか。
すれ違いという言葉やボタンの掛け違いという言葉があるように、単なる期待に応えるというだけのことですが、ほんとうは期待に応えられているそんな場合のほうがレアケースなのです。
だからこそ、あなたがクライアントの期待に応えることができれば、それだけであなたの信頼は飛躍的に向上するのです。
しかし、ただクライアントの期待に応えるだけでは、ほんとうに心から信用されるレベルには達せません。
クライアントの期待に応えたうえで、その期待値を遙かに上回ることでクライアントの期待を裏切るのです。
裏切るというと誤解を招くかもしれませんが、予想された期待どおりのものを提供しても、クライアントは喜んでくれはしますが、満足度はマックスではありません。
サプライズというレベルになってはじめて、クライアントは驚き、感動し、そしてあなたへの抜群の信頼を抱いてくれるのです。このサプライズのレベルを、期待を裏切ると表現したのです。簡単にいえば、嬉しい裏切りです。
たとえば、あなたが誕生日になにが欲しいかと聞かれて答えたものを誕生日のプレゼントとしてもらったとします。もちろん、嬉しいことには違いないのですが、その嬉しさは想像の範囲内です。
ところが、誕生日になにをほしいか聞かれないのに、ほしかった最新のiPhoneをプレゼントされたとします。すると、「なんで私がこれを欲しかったとわかったの!?」という驚きとともに、そういう自分の隠していた気持ちに気づきわかってくれた相手に対して、どこまでも深い感謝と喜びの気持ちを抱くのではないでしょうか。
アメリカの短編作家、オー・ヘンリーが書いた『賢者の贈り物』という小説があります。クリスマスにクリスマスプレゼントを用意することができなかった夫婦が、それぞれある手段で相手へのプレゼントを用意する物語ですが、ぜひ読んでいただきたいのです。
この小説には、ひとを動かす原理・原則と、その原理・原則が極がすべてのひとを幸せにするその秘密が書かれていますから。
それでは、より具体的にクライアントの気持ちをどうやって動かすかいっしょに考えていきましょう。
1. クライアントの期待に応える
1-1.クライアントが何を求めているかを探る
クライアントがどんな期待をしているのか、この最も当たり前のことがどれだけないがしろにされているでしょうか。
もちろん、それを尋ねたとしてもクライアントから明確な答えが返ってくるわけではないかもしれません。
いや、むしろそんな質問をするあなたに、なんでそんなことを聞くのかと怪訝な顔をして聞き返すクライアントも少なくないでしょう。
そんな質問をするコピーライターも実際には少ないからなのです。
最も大切なことは、クライアントから返ってきた答えは、参考意見にしか過ぎないということなのです。
極端にいえば、Aという答えが返ってきたとしても、ほんとうに欲しいのはAではなくBかもしれないのです。確かなことは、何を求めていますかという質問に対して○○を求めていると答えたというその事実です。
そして、そこからあなたの想像力を働かせていただきたいのです。
クライアントの答えも参考のひとつとして、クライアントはほんとうはなにを求めているのかということをさまざまな想像をめぐらして考えていただきたいのです。
さらに、もうひとつ重要なことがあります。
それは、クライアント自身も実は自分がなにを求めているのかわかっていないということなのです。
モノがない時代には、こんなことは有り得ませんでした。誰もがはっきりと自分が求めているものをわかっていました。いや、その瞬間に足りないものがわかっていたのです。
しかしいまや、ありとあらゆるものが世の中には存在しています。
欲しければなんでも手に入るのです。
そんな時代だからこそ、いったいなにを必要なのか、いったい自分はなにを求めているのか、それが自分自身でもわからなくなってしまっているのです。
キャッチコピーも同じです。
ありとあらゆるマーケティング手法が世の中に存在し、ありとあらゆるキャッチコピーが存在します。
そんななかで、いったいどんなキャッチコピーを作ればいいか、作るべきかまったくわからないというのが、クライアントの正直な気持ちなのです。
そして、なにより大切なことは、だからこそ、コピーライターであるあなたにクライアントは相談し、依頼しているということなのです。
1-2.クライアントが求めていることの探り方
ひと言でいえば、クライアントを知るということです。
このクライアントを知るということも、実は最も無視されないがしろにされていることのひとつです。
クライアントのHP、ブログ、Facebook、Twitterをあなたは確かめたでしょうか。
もし、クライアントがメールマガジンを発行していたり、無料オファーのプレゼントを提供しているとしたらそれは参照したでしょうか。
それ以上に大切なこと、あなたがキャッチコピーを作るその商品・サービスについて、あなたはどれだけのことを知っているでしょうか。
さらに、その商品・サービスについてのさまざまなリサーチをどれだけしたでしょうか。
□ 商品・サービスのリサーチ項目
その商品・サービスの特徴
その商品・サービスの見込み客の特徴
その商品・サービスの販売現場の特徴
その商品・サービスの競合の特徴
世の中の動向
そして、これらを調べ、リサーチするとき、どれくらいすればいいのかという質問が必ずでてきます。
答えは、「できる限り」というしかないのです。
できる限り、可能な限り調べ、リストアップしてみる。
やってみるとわかりますが、そのリサーチの過程のなかで、実はキャッチコピーの種が見つかったりするものです。
逆にいえば、キャッチコピーの種らしきものが見つかるまでリサーチし続けるというのが答えかもしれません。
実際には、このリサーチは時間もエネルギーも膨大にかかるため、ついついいい加減にしがちです。
ところが、クライアント自身も見落としていたキャッチコピーの種が、このリサーチのなかから見つかることが少なくないのです。
いや、このリサーチのなかからキャッチコピーの種を見つけることが、コピーライターであるあなたの最も大切な仕事のひとつに違いないのです。
このリサーチのなかに、必ずキャッチコピーの種が見つかるに違いない、そう決意し、覚悟し、リサーチしつづける。
それは、犯人発見のために飽くなき現場検証を続ける交通事故の科学捜査班のようなものかもしれません。誰もが見逃していた微細な証拠を見つける。その執念は、コピーライターである僕らも学ぶべき最も大切なコピーライターとしての姿勢のひとつに違いないのです。
1-3.キャッチコピーの手がかりを探せるクラインアントとのブレーンストーミング
ブレーンストーミングというアイデア発想法をご存知でしょうか。
これは、アメリカで開発されたアイデア発想ノウハウのひとつですが、新しいアイデアを発想するための会議手法です。
□ ブレーンストーミングのやり方
・進行役1人とメンバーを4~6人集める
・テーマを設定する
・アイデアを出し合い、すべて書き上げる
(ホワイトボードなど、全員が見えるように)
□ ブレーンストーミングのルール
・他人の発言を否定しない
・質より量を出す
・自由に発言してもよい
・他人のアイデアに乗ってもよい
ブレーンストーミング(しばしばブレストと略されます)で最も大切なルールは他人の発言を否定しないということです。
これは、自分自身の発想を制限しないという意味でもとても大切なことなのです。こんなことをいったら馬鹿にされる、こんなことをいったらおかしいと思われる、こんなことをいったら軽蔑されてしまう…。
そんなふうに発言する前から自分のいうことを制限することで、発想それ自体が制限されてしまうのです。誰が何をいおうと、ブレスト内での発言は自由です。
むしろ、いままでにない発想を展開しあい、互いにあおりあうことで、これまでの発想の殻を破り、いままでにない発想に辿り着くのです。このブレストをクライアントと繰り返すことで、クライアントの本音や深層心理を聞き出すことも可能ですが、最も大切なのはクライアントの好き嫌いがわかることです。
マーケティングや戦略というと、どうしても冷徹な科学と見なしがちですが、広告づくり、とりわけキャッチフレーズ作りは、人の気持ちを動かすという最も人間的な行為です。
そこには、戦略や科学を越えた、最も人間的な好き嫌いという基準が入り込むことを忘れてはならないのです。
そして、このブレストを通じて、間接的にではありますが、直接的には決して聞くことのできないクライアントの好き嫌いの基準を明確に知ることができるのです。
1-4.クライアントの文化・作法に応える
クライアントの数だけ、それぞれの企業文化があり、その企業ごとの“作法”があります。なにをもっていいとするか、なにをもってだめとするか、その基準こそそれぞれのクライアントの企業文化なのです。その個々の企業文化に照らし合わせることも大切な条件のひとつです。
インパクトあるキャッチコピーというとき、あくまでパンチある大きな声を望むクライアントもあれば、静かなインパクトもインパクトだというクライアントもあります。
そのどちらがいいということではないのです。
同じ種類の商品のキャッチコピーを作ったとしても、
あるクライアントではいいとされ、違うクライアントでは真っ向から否定されるということはよくあることなのです。
だからこそ、それぞれのクライアントの企業文化、気企業としての作法にも敏感であってほしいのです。
1-5.クライアントの“お客さま”の基準にあわせる
クライアントの基準とは、往々にしてそのクライアントの“お客さま”の基準であったりします。クライアントごとに支持される、得意な“お客さま”群の特徴があります。クライアントの基準にあわせるとは、そのクライアントの“お客さま”の基準にあわせるということなのです。
唯一無二な、絶対の答えなどありません。クライアントの“お客さま”が求めるものこそ、そのクライアントが求めるものです。クライアントが求めるモノがわからなくなったら、そのクライアントの“お客さま”はどんな“お客さま”か、それを考えるといいのです。
そして、クライアントの“お客さま”がいいと思ってくださるキャッチコピーが、あなたのクライアントがいいと思ってくださるキャッチコピーだということを忘れないでいただきたいのです。
2. クライアントの期待を裏切る
2-1.実現値−期待値がクライアントの真の満足度
クライアントの期待値を越えることも最も欠かせない条件のひとつです。
確かにクライアントの期待に応えることははずせない条件には違いありません。けれど、期待に応えるだけでは、クライアントの真の満足には到達できないのです。
実現値−期待値=想定外満足度
実現値−期待値、つまりあらかじめ想定していた期待値をどれだけ越えることができるか。その差がクライアントの満足度を決定づけるのです。
簡単にいえば、クライアントの期待をどれだけ美しく裏切ることができるか。期待以下は論外ですが、期待したとおりでもクライアントは喜んではくれません。期待していた以上のものを提示するからこそ、クライアントは驚き、そして喜んでくれるのです。
キャッチコピーの基本はサプライズ、いままでにない驚きです。そのサプライズや驚きでまず目の前のクライアントを喜ばせることくらいできなければ、目の前にいないターゲットや見込み客の心をキャッチすることなどできないのです。
2-2.クライアントの半歩先をいく
クライアントの期待値を越えることは最も大切なことのひとつですが、その越える幅も大切です。
簡単にいうと越え過ぎもまたよくないということなのです。
確かにクライアントの期待値を越えなければならないのですが、越えすぎるとこんどはクライアントがついてこれないのです。
広告は時代の半歩先をいく、などとよくいわれてきましたが、クライアントの期待の半歩先をいくくらいがちょうどいいのです。
この半歩先の見極めが難しいのですが、クライアントが理解できる範囲内での裏切り、といえばいいでしょうか。
なにごともバランスが大切です。裏切りすぎると、こんどはほんとうの裏切りになってしまい満足を越えてしまうことも理解しておきたいことのひとつです。
まとめ
キャッチコピーを作るとき、そのキャッチコピーのターゲット、見込み客であるエンドユーザーの心を動かすことは最も大切なことですが、それと同じくらい重要なことがあなたにキャッチコピーを依頼してくれたクライアントの心を動かすことです。
「さすがですね!」と褒めていただいたその瞬間、あなたが作ったキャッチコピーは、あなたのものではなく、クライアントのものになり、世の中に産声をあげるのです。どんなにいいキャッチコピーを作っても、それが世の中に出ていかなければあなたが作った意味がありません。
あなたの作ったキャッチコピーを世の中にデビューさせるためにも、クライアントに喜ばれるキャッチコピー作りのポイントを押さえておいていただきたいのです。
1958年、横浜生まれ。同志社大学文学部卒業。
広告企画制作・株式会社エヌワイアソシエイツ、総合広告代理店・株式会社インターストラテジー、ソーシャルメディア専門広告代理店・株式会社ソルト等の経営者であり、広告プロデューサー、ブランディングプロデューサー、コミュニケーションクリエイター、ディレクター、コピーライター、コーチ、セミナー講師、作家、詩人として幅広く活動。大手企業の広告キャンペーンを手がけ、多くの商品をヒットに導く。30年以上の広告人としてのキャリアの中で培った、商品の隠れた可能性を見つけ、付加価値を高める独自のブランディング手法を確立。そのブランディングノウハウを広く提供し、著名人の撮影やクライアントのパーソナルブランディングをプロデュース。プロフィール構築からポートレート撮影、目標達成や成功をサポート。クライアントは多岐にわたり、カリスマブランディングプロデューサーとしても定評を集める。マイケル・ボルダック認定コーチ。経済産業大臣登録中小企業診断士。